高齢者にとって、近所での散歩やガーデニングなど、太陽の下で時間を過ごすことは日常生活の一部になっています。そのため、太陽光が私たちにどのような影響を及ぼすかを知っておくことも重要です。太陽光を浴びると健康面でどのような影響があるのか、その良い面と悪い面を両方理解することで、最大限安全を確保しながら太陽の下での活動を楽しむのに役立ちます。
健康面におけるプラスの影響
太陽光を浴びることで骨が強くなり、また免疫機能が高まって全般的に健康状態が良好なものになります。例えば、太陽光を浴びるとカルシウムの吸収に不可欠なビタミンDが生成され、骨の強度を維持するのに役立ちます(Repinski, 2018)。また研究によると、紫外線を浴びると血圧が下がり、一部の慢性疾患のリスクを抑えることにつながります(Repinski, 2018)。太陽からの紫外線、またはUV光には3つの種類があります。私たちが浴びる紫外線の大部分を占めるのがUV-Aです。UV-Bは、UV-Aより強い紫外線ですが一般的ではありません。UV-Cは私たちにとって最も有害ですが、地球のオゾン層がUV-Cから私たちを守っています(Effects of Sun Exposure, 2017)。
さらに、太陽光を浴びると睡眠の質が高くなるというのもメリットの一つです。これは太陽光に体内のメラトニンのレベルを調整する作用があるためです。メラトニンは睡眠周期を整えるホルモンで、暗闇の中ではメラトニンの生成量が増え、明るいと減り、体にいつ寝るべきか、いつ起きるべきかを知らせる働きを持っています。また、体内で生成されるセロトニンという自然由来の物質は、精神を安定させる働きがあります。これは太陽を浴びる事によって生成される量が増えます。セロトニンは気分の落ち込みや不安を抑え、幸福感を高めることがわかっています(Hendrich, 2018)。太陽光の下で過ごすことには、こうした健康面でのメリットがありますが、その一方で安全面に配慮することも重要です。太陽光を浴びることによるメリットが、紫外線にさらされることによるマイナスの影響を打ち消すことはありません(Repinski, 2018)。
健康面におけるマイナスの影響
太陽光の下で過ごすことには、健康面でのメリットがある一方で、マイナスの影響もあるため配慮が必要です。その中の一つが皮膚がんです。皮膚がんは、高齢者が発症することの多い病です(United States Cancer Statistics, 2020)。太陽光によるダメージは積み重なる性質がある、あるいは太陽光を浴びれば浴びるほどダメージが増加するためです(Skin Cancer Facts & Statistics,n.d.)。人は18才までに、一生で浴びる太陽光の分量のうち23%を浴びると言われています。そのため、日常的に太陽光への対策を行うことで、ダメージから身を守ることができます(Skin Cancer Facts & Statistics,n.d.)。私たちは外で過ごす時間をつい短く見積もってしまいがちで、日焼け止めを塗ることや帽子をかぶることを怠ってしまうこともあります。ガーデニング、ご友人とのゴルフ、お盆のお祭りでのボランティアといった太陽の下での活動は、一生で浴びる太陽光の分量を増やすことにつながります。太陽光や太陽熱が原因で起こる症状と、太陽を浴びる際の注意事項をまとめました。
- 脱水症状(Hot Weather Safety Tips, n.d.)
- 脱水とは、体から水分が失われることで、治療を受けないと、深刻な事態に陥る可能性があります。
- のどが乾くということは、すでにある程度脱水を起こしている兆候です(Heat, Hydration, and Sun Safety, 2019)。
- 脱水症状の兆候には、次のようなものがあります:疲労感、頭痛、筋肉のけいれん、めまい、混乱、失神など(Hot Weather Safety Tips, n.d.)。
- 脱水症状を起こしたら、水を飲みましょう。電解質(Electrolytes)を含むスポーツドリンクを飲むのもよいでしょう。電解質とは、心拍を調整し水分補給に重要な役割を果たす、塩やその他のミネラルのことを指します(Hot Weather Safety Tips, n.d.)。
- 水分を補給しても、体調がよくならない場合は911に電話しましょう。体調が良くなった場合でも、心臓疾患などの持病を持つ方は、受診が必要か主治医に問い合わせましょう(Hot Weather Safety Tips, n.d.)。
- 熱疲労
- 熱疲労は、脱水と過度の熱によって起こります。これは深刻な状態で、治療が必要となります(Hot Weather Safety Tips, n.d.)。
- 熱疲労の症状には次のようなものがあります:大量の発汗、脱力感、失神、疲労感、けいれん、体温の低下、冷や汗、喉の乾き、心拍数の増加、または心拍の弱まり、吐き気、嘔吐など(Heat, Hydration, and Sun Safety, 2019)。
- 熱疲労の症状が出た場合、涼しいところや日陰に移動し、冷たい飲み物を飲んでください。涼しいところに移動し水分を補給しても体調がよくならない場合は911に電話しましょう。治療を受けなければ、熱疲労は、熱射病に進行する場合があります(Hot Weather Safety Tips, n.d.)。
- 熱射病
- 熱射病は深刻な状態で、危険な体温の上昇を伴います。
- 熱射病は、太陽光や太陽熱に数日さらされることによって少しずつ進行することがあり、治療しないと命に関わる事態となる場合もあります(Hot Weather Safety Tips, n.d.)。
- 熱射病の症状は、混乱、めまい、頭痛、呼吸困難、動悸、吐き気、嘔吐、体温の上昇または皮膚の紅潮、失神などです(Heat, Hydration, and Sun Safety, 2019)。
- 熱射病の症状が出た場合は、911に電話してください。救急サービスを待つ間、涼しい場所や日陰に移動します。重たい服を来ている場合は脱ぎ、体の熱を逃がすよう心がけてください。手首や足首、首に冷たい水をあてると体温を下げることができます(Hot Weather Safety Tips, n.d.)。
- これらの熱に関連する障害が起きた場合は、主治医が把握できるよう、都度主治医に報告をするようにします。
- 皮膚がん
- Skin Cancer Foundation(皮膚癌財団)によると、皮膚がんは皮膚の細胞が異常な成長をすることを指します(Skin Cancer 101, n.d.)。皮膚がんの二大要因となっているのが太陽からの紫外線、または日焼けマシンからの紫外線です。
- アメリカ人の5人に1人が70才までに皮膚がんを発症します(Skin Cancer 101, n.d.)。皮膚がんは、アジア人のかかるがんの2~4%を占めます(Skin Cancer Facts & Statistics, n.d.)。幸いなことに、皮膚がんは早期に発見できれば、わずかな瘢痕は残りますが、完全に除去できる可能性が高い皮膚科領域の疾病です(Skin Cancer 101, n.d.)。
- 紫外線は目には見えない光で、皮膚を通過します。過度に太陽光にさらされると、紫外線は皮膚の内層に到達し、日焼けを引き起こします。曇りや天気が下り坂の日でも紫外線は皮膚にダメージを与える可能性があります。
- 皮膚がんは大きく3つの種類に分かれています。最も一般的なのは、基底細胞がん(BCC)です。このタイプのがんは、顔、耳、首、頭、肩、背中など、日光が当たる場所に発症します。
- 基底細胞がんは強い紫外線にさらされた場合や、長期に渡る紫外線への曝露によって引き起こされます。また基底細胞がんは発見が遅れると、周囲の皮膚にもダメージを与えることがあります (Skin Cancer 101, n.d.) 。
- 皮膚がんで次に多い形態は、扁平上皮がん(SCC)です。扁平上皮がんは、耳、顔、首、手などに見られます。
- 扁平上皮がんの大多数は、日焼けサロンを含め、まとまった量の紫外線にさらされることによって起こります。扁平上皮がんは早期発見や治療を行う前に、急速に成長し広がる可能性があります(Skin Cancer 101, n.d.) 。
- 3つ目の一般的な皮膚がんは、メラノーマです。これらは、日焼けを引き起こす強度の太陽光への曝露に起因します。メラノーマはほくろに似ており、ほくろから進行することもあります。
- メラノーマは体のあらゆる場所に発生し、皮膚がんの中で最も危険ながんです(Skin Cancer 101, n.d.)。
- 皮膚がんの治療では早期発見が重要です。しかしそれに加え、皮膚がんや他の健康に関連する障害を回避するための様々な予防策もあります。
- 薬
- 利尿剤、鎮静剤、一部の心臓病や高血圧の治療剤などを服用すると、体が冷えにくくなる場合があります。また、処方薬の中には、体温が上がりやすくなる薬もあります(Hot Weather Safety Tips, n.d.) 。
- 薬の中には、服用することで太陽により敏感に反応しやすくなるものもあります。これらには、抗生剤、抗がん剤、糖尿病薬、一部の鎮痛剤が含まれます (10 Types of Medications, 2017) 。
- 熱や太陽光への感受性が高まる可能性のある薬については、医師や薬剤師に相談する必要があります。
予防策
太陽光に起因するリスクや熱に関連する障害のリスクは広く見られますが、そのために外出をやめてしまう必要はありません。しっかり太陽光への対策を行いながら、ガーデニング、ゴルフ、運動、その他の屋外の活動を楽しむのが理想です。皮膚がんや熱に関連する障害のリスクを抑えることのできる予防策をまとめました。
- 保護機能を持つ衣服 (Sun-Protective Clothing, n.d.)
- 紫外線からの保護を強化するために、つばの広い帽子をかぶりサングラスを着用して、目を保護します。
- 衣服は紫外線を吸収したり遮断したりするため、最も有効な太陽光対策の一つです。暗い色や明るい色の服は紫外線を吸収するため、紫外線が皮膚に到達しません。暗い色の服のほうが紫外線対策にはより効果的ですが、光を吸収して暑くなることがありますので注意しましょう。その他の予防策も実施して、太陽への安全対策を最大限に行います。
- デニムなどの素材は、薄い素材と比べると保護効果が高くなります。長ズボン、長袖を着用してより広範囲に肌を覆うことで、紫外線からの保護を強化することができます。
- 日焼け止め (Heat, Hydration, and Sun Safety, 2019)
- UV-AやUV-Bから身を守るため、広域スペクトルの日焼け止めを使用することも重要です。
- SPF30以上の日焼け止めを選び、外へ出る30分前に肌に塗ります。耳や髪の生え際など、見過ごされがちな部分にも日焼け止めを塗るようにしましょう。
- 長時間外で過ごす場合は、2時間ごとに日焼け止めを塗り直してください。泳いだ後や汗をかいた後にも塗り直しをします。また屋内に入ったり、日陰に入るなど、休みを入れるようにしてください (Effects of Sun Exposure, 2017)。
- 定期的な皮膚の検査 (Urban, 2019)
- AARPにより、深刻な皮膚がんが高齢者の間に見られるようになってきていることが判明しました。そのためAARPでは、高齢者に皮膚に異変が起きていないか、定期的に検査することを推奨しています。
- 自分自身で皮膚を定期的にチェックしたり、皮膚科で定期検査を受けることで、皮膚がんを早期に発見することができ、治療が成功する可能性が高まります。
- 自宅での検査や自己検査を行う場合は、皮膚の変化や、適切に治癒しない箇所がないか確認するようにします。大きくなってきているできものやほくろがないか、また、三週間以内に治癒しない、かゆみや痛みのある斑点やただれがないか、チェックします。
- これらのいずれかを見つけた場合や、気になるものを見つけたがそれがなにかはっきりしない場合、すぐに皮膚科を受診しましょう(Self-Exams Save Lives, n.d.)。背中など、自分では見にくい場所は、ご家族や医師にしっかり見てもらうとよいでしょう。
- 自己検査を望まない場合は、主治医に検査をしてもらうか、主治医に皮膚科医を紹介してもらいましょう。今日からでも遅くはありません。ぜひ予防策を実行し積極的な姿勢で健康に向き合うようにしましょう。
行動に移す
屋外で過ごす際、太陽光のメリットを最大限享受しつつ、リスクを最小限に抑える方法はたくさんあります。外出する時間を計画的なものにするよう心がけるのもその1つです。太陽光は午前10時から午後4時の時間帯が最も強力です(Effects of Sun Exposure, 2017) 。この時間帯に外出する場合は日焼け止めを塗るようにし、必要に応じて繰り返し塗るようにしてください。また水分補給をすることで、熱中症に関連する障害を防ぐことができます。熱中症に関連する障害を経験した場合は、主治医に必ず伝えるようにしてください。また、自己検査で皮膚がんの兆候をチェックする方法を知るためには主治医に相談するか、さらに詳しく情報を得るために皮膚科医を紹介してもらうようにしましょう(How to do a Skin Self-Exam, n.d.)。太陽光を浴びることによるメリットを享受するため、まずは太陽光の持つ有害な性質を避けるにはどうしたらよいかを知る必要があります。
太陽に関する安全についてさらに情報をご覧になりたい場合は、こちらでお読みいただけます。(英語)
- American Skin Association http://www.americanskin.org/resource/safety.php
- Environmental Protection Agency https://www.epa.gov/sunsafety
- Melanoma Research Foundation https://melanoma.org/patients-caregivers/newly-diagnosed/
References
Effects of Sun Exposure. (2017). Retrieved from https://familydoctor.org/effects-early-sun-exposure/
Heat, Hydration and Sun Safety. (2019). Retrieved from https://agesafeamerica.com/heat-hydration-and-sun-safety/
Hendrich, Silas. (2018). Retrieved from https://chhs.source.colostate.edu/3-reasons-to-go-outside-and-enjoy-the-sun-this-summer/
Hot Weather Safety Tips for Older Adults. (n.d.). Retrieved from https://www.healthinaging.org/tools-and-tips/hot-weather-safety-tips-older-adults
How to do a Skin Self-Exam. (n.d.). Retrieved from http://www.cancer.org/healthy/be-safe-in-sun/skin-exams.html
Repinski, Karyn. (2018). Retrieved from https://www.consumerreports.org/health-wellness/sun-exposure-health-benefits/
Self-Exams Save Lives. (n.d.). Retrieved from https://www.skincancer.org/early-detection/self-exams/
Skin Cancer 101. (n.d.). Retrieved from https://www.skincancer.org/skin-cancer-information/
Skin Cancer Facts & Statistics. (n.d.). Retrieved from https://www.skincancer.org/skin-cancer-information/skin-cancer-facts/
Sun-Protective Clothing. (n.d.). Retrieved from https://www.skincancer.org/skin-cancer-prevention/sun-protection/sun-protective-clothing/
United States Cancer Statistics: Data Visualizations. (2020). Retrieved from https://gis.cdc.gov/Cancer/USCS/DataViz.html
Urban, Peter. (2019). Skin Cancer Rates Rise for Older Adults. Retrieved from https://www.aarp.org/health/conditions-treatments/info-2019/skin-cancer-rates-rise-for-older-people.html
10 Types of Medications That Should Keep You in the Shade This Summer. (2017). Retrieved from https://www.health.harvard.edu/skin-and-hair/10-types-of-medications