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定年退職後の生活は、仕事で忙しかった日々から一転、新しい趣味に没頭できる自由な時間が増えます。余った時間でボランティア活動をしてみてはいかがでしょうか?ボランティア活動は、社会貢献のみならず、健康へのメリットも多く見られることが研究などで分かっています。ボランティアという有意義な経験を重ねていくことで、新しい生きがいを発見したり、昔からあった社会貢献への情熱を再びわき起こしたりすることができ、身体的・精神的な健康につながります。


身体的なメリット

  1. 血圧の低下
    コミュニティで活動する時間が増えるということは、家で座りがちな生活を送ることが減ることを意味します。そのため、ボランティア活動は身体を動かすことと密接に繋がっています。ある研究によれば、1週間に最低4時間ボランティア活動をする高齢者は、そうではない高齢者に比べ高血圧になる可能性が40%低下するといわれています(Sneed & Cohen, 2013)。また、血圧値の低下により、脳卒中、心臓病、早死のリスクも低下します。
  2. 認知症リスクの低下
    カルガリー大学が実施した調査によれば、週1回1時間のボランティア活動をする65歳以上の高齢者は、ボランティア活動しない高齢者より2.44倍認知症になりにくいことがわかっています (Griep et al., 2017)。加えてボランティア活動は、社会的な側面において認知機能を刺激し、認知症の予防や進行を遅らせるのに効果的だとも言われています (Gupta, 2015)。
  3. 死亡リスクの低下
    コミュニティの中でボランティア活動をすることは、健康な55歳以上の人の死亡リスクを47%低下させると言われています (Okun et al., 2013)。血圧の低下、生きがいの発見または再発見、人とのつながりを増やし人間関係を豊かにするなどのボランティア活動によるメリットは人の健康に良い影響を与えると研究では明らかになっています。
  4. ストレス・レジリエンスの強化(柔軟な適応能力)
    研究者によれば、他のために手を差し伸べ、助けることは、脳に喜び、快楽の信号を発信させると言われています (Segal & Robinson, 2018)。他人の喜びや健康に貢献すればするほど、その親切な行動から得られる幸福感は、ストレス・レジリエンス(ストレスに対して柔軟に適応できる力)の強化につながるとも言われているそうです (Scott, 2018)。
  5. うつ病リスクの低減
    全米・地域サービス公社(Corporation for National and Community Service)の研究(2019)によれば、うつ病の5つ以上の症状があった人が、ボランティア活動に2年間継続して参加したところ、78%の人は症状の数が減ったと報告しています。ボランティア活動によって作られる社会的な交流の場は、他人とより深い繋がりを作り、自分を支えてくれる人のネットワークをひろげ、結果的にうつ病から自分を守ることにつながります (Segal & Robinson, 2018)。

社会的なメリット

Teaching iPad to Older Adults
  1. 人脈を広げ、人間関係を豊かに
    ボランティア活動は、日頃関わることがないような人と出会うことができ、友達の輪を広げる良い機会です。様々な人々と接したり、友達を作ったりすることで、自分を支えてくれるより強固なサポートネットワークが広がります。
  2. 助け合い精神の促進
    他のための行いはさらによい行動を波及させる効果があります。時間とエネルギーを他の人のために使うことによって、助けられた人もまた他の人に手を差し伸べ、助け合い精神の促進につながるのではないでしょうか。
  3. 世界をより良く
    私たちは自身が持つ専門知識を活用して、周りの人を支えることができます。多くの団体はボランティアを積極的に受け入れています。中には常勤職員を雇う資金がないところもあるため、ボランティアによる支援が必要であり、また歓迎されています。

心理的なメリット

  1. 情熱を注げる新しい発見
    ボランティア活動は、気になっていたけれど今までやってこられなかった活動や役割を体験できます。移民に英語を教えたり、近所のコミュニティセンターでイベントを計画したり、新しい経験は情熱を注げるものを見つけるきっかけになるのではないでしょうか。年齢に関係なく、誰でも新しいことに挑戦し、学ぶことができます。
  2. 好きなことをしながら、リラックス
    服を折りたたむことで喜びを感じる人、大工作業が得意な人、最新技術を学び、使ってみることでウキウキする人など、人それぞれ好きなことは違います。どのようなものであれ、好きなことに時間を割くことは、リラックスできるのみならず、普段の生活に変化をもたらします。ボランティアであれば、その自分が好きなことをしながら、人を手助けできるのです。
  3. より充実した生活へ
    定年退職したばかりの方や、配偶者を亡くした高齢者は孤独感や疎外感を感じるかもしれません。コミュニティの活動に参加することで、新しい生きがいを見出しながら、様々な人と繋がります。自分個人で行動するのではなく、より大きな活動やプロジェクトに参加することで、気分を高め、生活の活力が沸くきっかけになるのではないでしょうか。
  4. 自尊心の向上
    人は、他のために何かすることで達成感を感じます。自分の目の前でそのプラスな結果が見えればなおさらです。自分の努力で他の人を助けられたことが自信となり、自分を肯定することにもつながります。

その他のメリット

  1. 賛同する団体を支援
    自分が賛同する団体を支援する方法は寄付することだけではありません。ボランティアした時間と努力は団体が目指す目的の推進に貢献します。
  2. 税金の控除
    ボランティア先への交通費や団体のために印刷した資料など、自己負担した費用は課税控除の対象に該当するかもしれません。控除を可能にするには以下条件を満たすことが必要になります:
  • 慈善事業がアメリカ内国歳入庁(IRS)に承認されていること
    • 慈善事業がIRSに承認されているかはこちらから確認
    • 内国歳入庁に501(c)(3)団体として登録されているかはこちらから確認
  • 控除の全てが納税申告書に箇条書き(Itemized)にしてあること
  • 金額がすでに慈善事業から返済されていないこと
  • 控除を申請する金額がボランティア活動に関係するものであること
  • 関連している費用の記録を提供できること(Fritz, 2018)

申告をより簡単に進めるために、ボランティアに関係する走行記録や購入した資料などの金額を細かく記録することをお勧めします。詳しいことはこちらのIRS Publication 526を参考にしてください。

ボランティアを始めるには

様々な種類のボランティア活動がある中、どのように始めればいいのかと、迷う方もいらっしゃるかもしれません。まずは、自分がボランティアをしたい理由・目的を考えるところから始めてみましょう。目的をはっきりさせることで、ボランティアの種類を絞ることができます。次に自分の趣味や興味をそそるものを考えてみましょう。ボランティア活動が情熱を注げるものであれば、ボランティアを楽しむことができる以上に、その楽しい気持ちを周りの方にも共有できます。

目的や自分の興味が分かったら、それに沿ったボランティア団体を調べます。ウェブサイトを見たり、あるいは団体のイベントに参加したりしてみましょう。その団体に興味がある場合はボランティアの機会があるか問い合わせます。その団体が募集しているボランティアが自分のできる範囲内であること、自身のスケジュールに合っていること、自分にとって楽しいことであることを確認します。

これからボランティア活動を始める方は、色々試してみるのも良いかもしれません。友人や家族にボランティア経験を聞いてみることも、新たなアイデアや情報源になるかもしれません。

模範となるボランティアになる教科書は存在しませんが、自分のボランティア経験をより豊かでやりがいのあるものにするには以下に気をつけてみましょう:

  • 広い視野を持ち、前向きな態度で取り組むこと
  • ボランティアとして何を期待されているかを理解すること
  • どのようにすべきか分からない時は誰かに聞くこと
  • 友達を誘って、一緒にボランティアする(多ければ多いほど、楽しくなります!)
  • ボランティア先までカープール(相乗り)や他の代替交通手段を使ってみること
  • 他のボランティアの人や接する方への配慮を忘れないこと(意見を尊重)
  • ボランティアを楽しむこと

自分の視点を変えたり、ボランティア同士でコミュニケーションを取ったり、親切に人と接したりすれば、ボランティア経験を最大限に活用できます。大事なのは、ボランティア活動する事がストレスになるのではなく、満足感が得られ楽しいということです。自分のボランティア状況を見極めて必要であれば自分の生活に合うように調整してみてください。

近くのボランティア活動

ボランティアは、実際どこかに行って実施するだけでなく電話やネットなど離れている場所からすることも可能です。様々な選択肢があるため、自分の趣味と生活に合う活動を選ぶことが大切です。ボランティア活動は以下のような場所で実施できます:

  • Keiroのようなサービス提供している団体
  • 地元の映画館、美術館、記念碑など
  • 図書館あるいはシニアセンター
  • 青年向けの組織や団体、スポーツチーム、放課後プログラム
  • 近所のアニマルシェルター、救助団体、野生生物保護センター
  • 文化財保存活動、国立公園、保護団体
  • 宗教施設
  • オンライン・データベース (Segal & Robinson, 2018)
    • シニア・コープ(Senior Corps)は高齢者とボランティアをつなぐサイトです。これまでに22万もの高齢者をボランティア活動につなげた実績があります。自分に合うものを探すにはこちらからご覧ください。
    • ボランティア・マッチ(VolunteerMatch)は約12.5万のボランティアを探している非営利団体が参加するデータベースです。自分に合う団体を探すにはこちらからご覧ください。

南カリフォルニアの日系アメリカ人及び日本人コミュニティの中でのボランティアは下記をご覧ください。

Densho:日系アメリカ人の歴史ポータル第二次世界大戦中の日系アメリカ人の強制収容の歴史を記録、守り、語り続けることに貢献している団体です。
ゴー・フォー・ブローク・ナショナル教育センター(Go For Broke National Education Center):日系アメリカ人兵士たちの物語を語り伝える団体(サイトは英語のみ)
日米文化会館:日本や日系アメリカ人の芸術や文化を融合・発信・推進する団体です。
全米日系人博物館:日系アメリカ人の歴史と体験を紹介し、アメリカの人種と文化の耐用性に対する理解及び伝承に注力する非営利の博物館。
Keiro: 日系アメリカ人および日本人コミュニティの高齢者とその介護者の生活の質を向上させる非営利団体です。
トル東京サービスセンター: 南カリフォル ニア在住の人々や地域社会の向上を目指し、地域に受け継がれる豊富な文化背景の維持と強化に邁進する社会福祉団体です。


参考文献

  1. Corporation for National and Community Service (2019, February 5). Volunteering Helps Keep Seniors Healthy, New Study Suggests. Retrieved from https://www.nationalservice.gov/newsroom/press-releases/2019/volunteering-helps-keep-seniors-healthy-new-study-suggests
  2. Fritz, J. (2018, November). The Do’s and Don’ts of Tax Deductions for Volunteers. Retrieved from https://www.thebalancesmb.com/the-dos-and-don-ts-of-tax-deductions-for-volunteers-2502595
  3. Griep, Y., Hanson, L. M., Vantilborgh T., Janssens, L., Jones, S. K., & Hyde, M. (2017, March 16). Can Volunteering in Later Life Reduce the Risk of Dementia? A 5-year Longitudinal Study among Volunteering and Non-Volunteering Retired Seniors. Retrieved from https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0173885
  4. Gupta, S. (2015, November 18). Impact of Volunteering on Cognitive Decline of the Elderly. Retrieved from https://editorialexpress.com/cgi-bin/conference/download.cgi?db_name=EEAESEM2016&paper_id=44
  5. Konrath, S., Fuhrel-Forbis, A., Lou, A., & Brown, S. (2012). Motives for Volunteering Are Associated with Mortality Risk in Older Adults. Retrieved from https://www.apa.org/pubs/journals/releases/hea-31-1-87.pdf
  6. Okun, M., Yeung, E., & Brown, S. (2013, June). Volunteering by Older Adults and Risk of Mortality: A Meta-Analysis. Psychology and Aging. Retrieved from https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fa0031519
  7. Scott, E. (2018, January). Research-Based Links Between Happiness and Stress Relief. Retrieved from https://www.verywellmind.com/links-between-happiness-and-stress-relief-3144629
  8. Segal, J., & Robinson, L. (2018, December). Volunteering and its Surprising Benefits. Retrieved from https://www.helpguide.org/articles/healthy-living/volunteering-and-its-surprising-benefits.htm
  9. Sharpe, L. (2014, August). Americans Serving Their Communities Gain Well-Being Edge. Retrieved from https://teammates.org/wp-content/uploads/2016/05/Americans-Serving-Their-Communities-Gain-Well-Being-Edge.pdf
  10. Sneed, R., Cohen, S. (2013, June). A Prospective Study of Volunteerism and Hypertension Risk in Older Adults. Retrieved from https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3804225/#R54