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年齢を重ねるにつれ、私達は自分の記憶が以前より鮮明でないと気づくことがあるかもしれません。記憶力の低下は、年を重ねるに連れ多くみられる傾向にあるものの、そのすべてを老化の過程の一つとしてとらえるべきではありません(Harvard Health, 2019)。

老化に伴う記憶力の低下について語る際、「軽度の認知障害」、「認知症」、「アルツハイマー病」などの単語が同じ意味合いのものとして使用されることがよくみられます。しかしながら、これらの病気・症状には違いがあり、また本人への影響には個人差があります。時折物をなくしたり、伝えたい言葉が浮かばなかったり、月々の支払を一度忘れてしまったりすることは、軽い物忘れです。軽度の物忘れ記憶力の低下は、日常生活に支障をきたすことはありません (Harvard Health, 2019)。

認知機能の低下には、軽度の認知障害(MCI/Mild cognitive impairment)認知症の2種類が存在します。どちらも記憶が突然もしくは段階的に大きく低下するのが特徴です。例えば、見慣れた場所で道に迷ったり、同じ質問を繰り返すような症状が挙げられます(National Institute on Aging, 2021)。

これらの症状に適切に向き合い、対処するためには、物忘れと加齢に伴う記憶障害との違いを理解することが重要です。

軽度の物忘れと記憶力の低下

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一部の物忘れは加齢と共に起こりうるもので、それほど心配する必要はありません。集中していなかったり、しっかり注意を払っていない時に起こる「心ここにあらず」なぼーっとした状態も一種の物忘れです。また、記憶には“使わないものは手放す”という資質もあり、時が経つにつれて事実や出来事についての記憶が薄れるのはその為です。脳は使わない記憶を忘れることで新しい記憶の為にスペースを作るのです(Harvard Health, 2021)。なぜ部屋まで来たかを忘れてしまったり、喉まで出かかっている言葉が思い出せなかったり、会ったばかりの人の名前を忘れてしまったりするのは通常の物忘れの例です (National Institute on Aging, 2021)。物忘れは必ずしも難しい問題の兆候というわけではなく、下記の原因による頻繁に起こりうる例のように改善することが可能なケースもあります。

以下AARP(American Association of Retired Persons)のサイトより(Sadick, 2020) 

  • 薬の影響
    • 一部の処方薬に共通してみられる副作用に、一時的な混乱や思考速度の低下等の記憶関連症状が含まれます。
    • 高齢者は、様々な種類の薬を併用する場合もあり、その組み合わせが記憶に関する問題を引き起こすこともあります。
    • 記憶に問題を感じる場合は、主治医もしくは薬剤師に相談し、服用中の薬が記憶障害の原因になっていないかを確かめましょう。
  • 運動不足
    • 運動不足は脳の委縮の原因ともなり、脳細胞の連携に影響が及ぶと、認知機能の低下につながることもあります。
    • 定期的な運動は、脳細胞の健康と成形によい影響を与えることもわかっています。
  • 睡眠に関する問題
    • 寝すぎも寝不足(質の高い睡眠が不足すること)も同様に記憶や考察力に影響します。
    • 睡眠中に脳は新しい記憶を処理します。十分な睡眠がとれない場合、脳のこの処理が妨げられる可能性があります。
  • 不安症やうつ病
    • うつ病は集中力や記憶に影響を及ぼし、その症状は記憶障害と類似しています。
    • うつ病は脳細胞の発達や機能も低下させることがあります。

軽度認知障害(MCI)

軽度認知障害、MCI(Mild cognitive impairment)は、記憶や思考の障害が、通常の加齢によるものよりも重い症状がみられる状態を示します。大抵の場合、MCI患者は、自分自身で自立した日常生活を送ることが可能です(National Institute on Aging, 2021)。特徴は、3年から5年をかけ、徐々に認知能力が低下していくことです。MCIと診断されたからと言って、後に必ずアルツハイマー病や認知症に発展するわけではありません。MCIには健忘型と非健忘型の2種類があります。健忘型MCIでは、どこにしまったかを忘れてしまったり、新しい情報をすぐに忘れてしまう等の記憶力に関連した症状がみられます。非健忘型MCIは、注意力の持続や集中力、計画性や方向感覚に関連しています (Harvard Health, 2019)。

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認知症

認知症は脳内に起こる進行性の障害を総称する病名です。認知症には思考力や記憶力、考察力などの認知機能の低下が含まれます。また、認知機能の低下以外にも、言語力、知覚認識力、注意力、そして人格の変化等が個人の行動能力にも影響を与えます (Harvard Health, 2019)。アルツハイマー病は、65歳以上の人では、最も多い認知症といわれています(National Institute on Aging, 2021)。

AARPには物忘れと認知症の違いについての理解力を試せる英語のクイズが掲載されています。もしもご自分や大切な人が最近の出来事を思い出せなかったり、思考力が低下したと感じている場合は、主治医にご相談ください。症状の原因の可能性や記憶力、思考能力に役立つ情報を得られるかもしれません。

健康な脳の維持の為に

物忘れや記憶障害の原因を理解することは健康な脳を維持する為の第一歩です。認知機能を治療・回復するためにできることがあります。下記のような方法で脳を健康に保つことができます。 (Harvard Health, 2020):

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  • 運動
    • 適度な運動をすることによって、脳細胞を刺激、活性化させ、記憶能力や認知能力を保持できる結果がでています。
    • 運動に併せて健康的な食事をとることで、認知機能の低下につながるとされる血糖値や血圧、コレステロール値を抑制することができます。
  • 健康的な食事
    • 適切な栄養摂取は心身の健康のために必要です。
    • 十分な果物類、野菜類、魚類、ナッツ類、植物性たんぱく質の摂取は認知機能障害の予防に役に立ちます。
    • 適度な運動と同様、健康な食事も血圧、血糖値、コレステロール値を安定させ、認知機能の低下を予防することにつながります。
  • 脳への刺激
    • 常に脳に刺激をあたえることで、脳内細胞が活性化され、新しい脳細胞のつながりが作られ、脳の神経細胞の減少を防ぎます。
    • 読書、計算、ワードパズルや絵画や彩色などの脳を刺激する活動は脳の構築に役立ちます。
  • 睡眠
    • 毎晩十分な睡眠をとることは新しい記憶を処理する為に必要です。
    • 睡眠に関してのファクトシートはこちら。(現在英語のみ)
  • 周囲や社会とのつながりの維持
    • 社会的なつながりが強い人は、認知症のリスクが低い傾向にあります。
    • 家族や友人たちとの連絡を定期的にとることで、周囲や社会とのつながりを保つことができます。

Sources:

Harvard Health. (2019). Get the facts about memory loss. Retrieved from https://www.health.harvard.edu/mind-and-mood/get-the-facts-about-memory-loss

Harvard Health. (2020). 12 ways to keep your brain young. Retrieved from https://www.health.harvard.edu/mind-and-mood/12-ways-to-keep-your-brain-young

Harvard Health. (2021). Forgetfulness – 7 types of normal memory problems. Retrieved from https://www.health.harvard.edu/mind-and-mood/forgetfulness-7-types-of-normal-memory-problems

National Institute on Aging. (2021). Memory, Forgetfulness, and Aging: What’s Normal and What’s Not. Retrieved from https://www.nia.nih.gov/health/memory-forgetfulness-and-aging-whats-normal-and-whats-not

Sadick, B. (2020). Memory Loss Often Caused by More General and Reversible Health Issues. Retrieved from https://www.aarp.org/health/brain-health/info-2020/avoiding-cognitive-decline.html