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私たちの人生において、新居の購入、子供の大学進学、更には退職後の生活に備えた貯蓄など、様々な計画を立てる場面があります。前もって計画を立てることは、将来の生活をより良くする為の一つの方法です。将来に備えて計画を立てておくべき事柄は非常にたくさんあるため、見過ごされたり後回しにされたりするものもあります。「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」も、見過ごしがちな将来計画の一つです。とはいえ将来について家族と一緒に話し合い、後回しにせず今すぐ計画を立てておくことはとても大切です。

「アドバンス・ケア・プランニング」とは何か?

「アドバンス・ケア・プランニング」は日本語に直訳すると、事前に自身のケアについて計画する、という意味合いになります。自分が医療に関して決めなければならない様々な種類の事柄に対して、自分の希望や選択を家族や医療チームなどの人々に知らせることが含まれます(Advance Care Planning, n.d.)。特に将来、医療に関する意思決定を自分でできない危機的な状況に陥った際にとても大切なものになります。アドバンス・ケア・プランニングの目的は、意思表示をできなくなった場合に備えて、将来の医療に関する希望や選択を明確にする事です。医療に関する意思決定を確実に尊重してもらうためには、これらの意思決定をしっかりと文書化しておかなければなりません。ご自身の選択はご自身独自のものであり、自身の状況に合わせて選ぶ必要があります。

またアドバンス・ケア・プランニングを準備しておくことで、周りの家族や大切な人々を安心させ、ストレスを最小限に抑えて、家族間で起こりうるもめ事を減らすことにもつながります (Benefits of Advance Directives, n.d.)。もしも緊急時や終末期ケアに関する希望や意思決定を知らせていなければ、周りの人が代わりに意思決定をしなければならなくなり、ストレスが増える恐れもあります。さらに、あなたの代わりに下した意思決定に反対する家族がいれば、もめ事が起こるかも知れません。そのためにも今から将来に備え、計画を立て始めることが大切なのです。

アドバンス・ケア・プランニングに関する選択事項

アドバンス・ケア・プランニングには、命を救うための救急処置の利用に関する選択を含む様々な選択事項について意思を明確にします。以下は選択肢の一例です。(Advance Care Planning, n.d.)

心肺機能蘇生(CPR)

心臓が停止した場合に心拍を回復させることです。胸を押して肺に空気を入れることも含まれます。また電気ショックや投薬が実施される可能性もあります。

人工呼吸器の使用

人工呼吸器とは呼吸を助ける機械です。肺に空気を送り込むために、喉から気管にかけて管を挿入します。これは不快な場合が多いため、人工呼吸器を使用している間は投薬で鎮静状態を保ちます。

経管栄養法と液体投与のための静脈点滴(IV)療法

  • 食べることができなくなった場合、鼻から胃にかけて栄養チューブを挿入する場合があります。
  • 水分を取れなくなった場合、静脈点滴で液体を投与する場合があります。これらの液体は、静脈に挿入したプラスチック製の細い管を通じて体内に送り込まれます。

ホスピスケア

  • 終末期には苦痛を緩和するホスピスケアが役立ちます。
  • これには医療検査の削減、精神面のカウンセリング、鎮痛剤の投与に関する選択が含まれる可能性があります。
  • ホスピスケアと緩和ケアは異なります。どちらのケアも患者と家族の不安を取り除いて安心感を与えることに焦点を合わせていますが、緩和ケアは重い病気のどの段階でも受けることができ、治療と並行して利用できるのに対して、通常ホスピスを利用するのは治療を打ち切った後になります。

アドバンス・ケア・プランニングの書類

アドバンス・ケア・プランニングに関わる書類には様々あります。基本の書類として、自身の希望と意思決定の全てを記載できる「事前指示書(Advance Directive)」があります。また、こちらに補足書類として「リビングウィル(Living Will:生前遺言。終末期の医療・ケアについての意思表明書)」および「医療に関する永続的委任状(Durable Power of Attorney for Health Care)」を追加する場合もあります。またその他にも「DNR 指示(蘇生処置拒否指示:Do Not Resuscitate Order)」、「入院拒否・蘇生処置拒否表示(Non-Hospital Do Not Resuscitate Order)」、「挿管拒否表示(Do Not Intubate Order)」、「臓器・組織提供(Organ and Tissue Donation)」などを検討しても良いでしょう。これらの書類には、重複した情報やあなたに当てはまらない情報が含まれている場合もあります。ここに挙げた書類に関してわからないことがあったり、ご自身の状況に必要な書類がどれなのか分からない場合は、かかりつけ医に尋ねてみてください。以下一般的な書類をまとめました (Advance Care Planning, n.d.):

  • 「事前指示書(アドバンス・ディレクティブ:Advance Care Directive)」
    • この法的書類は、自身が意思無能力状態や話すことができなくなった場合にのみ使用するもので、あなたが希望する医療における選択肢を周りの人に知らせます。以下に述べている「リビングウィル」および「医療に関する永続的委任状」は、「事前指示書」を補足する書類で、かかっている医師または指定された医療代理人にあなたの希望を詳しく説明するものです。また、終末期ケアに関する希望を書類に含めることもできます。
    • この書類は状況や病状の変化に応じていつでも修正できます。
    • カリフォルニア州には「事前指示書」の写しを保存しておく「アドバンス・ディレクティブ・レジストリ(Advance Directive Registry)」というデータベースがあり、原本を提出できない場合はそこで閲覧することができます。
    • この書類を合法なものにするためには、この書類に記入した署名を、ご自身と無関係または入居する可能性がある医療施設に勤務している成人2名が、公証するか証人として署名をしなくてはなりません(California Advance Directive, n.d.)。
    • 記入用の書式は州政府のウェブサイトに掲載されています。
    • 次に挙げるような書類を「事前指示書」に含めれば、さらに詳しい希望事項を盛り込むこともできます。

リビングウィル(Living Will)

  • この書類は、死期が近づいたり意識がない状態が永続したりした場合に、治療に対する希望を医師に伝えるものです。
  • これらの意思決定には以下が含まれます。
    • できる限り長生きすることに価値があると思いますか?
    • 長生きすることよりも生活の質の方が価値があると思いますか?
    • 病気によって永続的な昏睡状態になった場合、どのような対処を希望しますか?

医療に関する永続的委任状(Durable Power of Attorney for Health Care)

  • この法的書類は、医療代理人または、あなたが医療に関する意思決定を下せなくなった時に代理で決定を下す人を指名するものです。
  • あなたが医療に関する意思決定を下せなくなった場合に医療代理人が医療に関する意思決定を代理で下せるようにするためには、「事前指示書」にあなたの価値観と希望を記載して、それらを理解してもらう必要があります。

アドバンス・ケア・プランニングを支援するために

アドバンス・ケア・プランニングを準備することは目を背けたくなる作業かも知れません。また様々な事柄を検討する必要があるため、どこから手を着けたらいいのか分からないかも知れません。将来の医療について準備する際に留意すべき注意事項を、以下に紹介します。 (Advance Care Planning, n.d.)

  • 自分の価値観を大切に
    • アドバンス・ケア・プランニングを進めるうえで、何よりも大切なのは自身の価値観です。これに基づいて医療に関する希望や選択をします。
    • これらの価値観は「リビングウィル」に含まれる情報に近いものになります。例えば「あなたが最優先するのは生きている日数ですか、それとも生活の質ですか?」などの情報です。その他の価値観に含まれるものとしては、人工呼吸器の使用や透析療法、その他の医療検査や処置など、希望するものや希望しないものの種類に関する選択などがあります。
  • 医師へ相談
    • 現在の健康状態が将来の健康にどんな影響を及ぼす可能性があるのかを、医師に聞いてみましょう。
    • 現在は基礎疾患がないけれども家族に病歴がある場合、家族と同じ病気になった場合の影響を医師に尋ねてみましょう。
    • 医師に相談することで、希望や選択肢を理解した上で選択することにつながります。
      • 年に一度の健康診断の際にアドバンス・ケア・プランニングの項目についての相談は、メディケアが適用でき、無料で行えます。
      • このような内容の相談は民間健康保険が適用される場合もあります。
    • 緩和医療(Palliative Care)も頼りにできる追加リソースの1つです。選択肢の理解を助け、自分の優先順位に合ったものを選択するお手伝いをします。
  • 書式の全項目を記入
    • 自身の価値観と優先順位や希望を考え、健康状態と医療の選択肢に関する医師との相談を終えたら、自分が決めた選択肢を該当する書類と書式にする必要があります。
    • 弁護士の支援を受けることも可能ですが、必須ではありません。弁護士は受ける治療の全てを知っている訳ではないので、医師に相談することを検討しましょう。
    • カリフォルニア州の「事前指示書」、「リビングウィル」、「医療に関する永続的委任状」の書式はこちらに掲載されています。https://livingwillforms.org/ca/
  • 周りの人へ共有
    • 医療に関する希望を家族および医師に知らせるのは大切なことです。医療上の緊急事態や終末期に自分の口で伝えられなくなった場合も、これらの意思決定に従ってあなたが選んだ医療を受ける事が出来ます。
    • 選択肢を詳しく記載した重要な書類は、医療代理人および医師と共有し、書類の保管場所を親しい友人や家族に話しておくことも検討しましょう。
    • 自身の希望や選択肢を共有することや終末期ケアについて話し合うことは難しいかもしれませんが、自分の書類を手元に用意し、家族全員で話し合いを行うことを検討しましょう。これらの難しい話し合いを進めるために役立つ追加のリソースをいくつか紹介します:
      • 「5つの願い(Five Wishes)」を利用すれば、全ての個人的・医療的・法的な〔希望を記した〕書類を包含する書類を作成でき、アドバンス・ケア・プランニングを進める上で役立つガイドとなります。選択肢について考え、決定し、家族と共有するのに役立ちます。
      • 「対話プロジェクト(The Conversation Project)」では、計画を立てて内容を共有する過程に役立つ情報があります。

行動に移す

将来のことは予想できませんが、今のうちに計画を立てることで、将来のストレスを減らすことにつながるのではないでしょうか。

将来の医療に関する計画を立てることで、ご自身のケアにまつわる家族の負担と意見の不一致を最小限に抑えて、希望していたケアを確実に受けることにつながります。

終末期ケアに関する話し合いをしたり、将来に関する意思決定をしたりするのは気が向かないかも知れませんが、意思がはっきりしている間に書式にすることが大切です。書類の内容を理解し、自身にとっての最善の選択を今することが将来の安心につながります。まだ始めていない方は今からでも遅くはありません。

その他使えるサイトのまとめです:

「5つの願い」のウェブサイト:https://fivewishes.org/Home
日本語版:http://f63c9937f10f35a3af09-0f0651bd7789d8858c85ce887c1ac5c4.r4.cf5.rackcdn.com/6089/fivewishesjapanese.pdf
「対話プロジェクト」のウェブサイト:https://theconversationproject.org/
「癒しケア」プログラム:https://keiro.org/what-we-do/iyashi-care
アドバンス・ケア・プランニングの各書式:https://livingwillforms.org/ca/

参考:

Advance Care Planning: Healthcare Directives. (n.d). Retrieved from https://www.nia.nih.gov/health/advance-care-planning-healthcare-directives

Benefits of Advance Directives. (n.d.). Retrieved from http://www.ucihealth.org/patients-visitors/advance-care-planning/benefits-of-advance-directives

California Advance Directive. (n.d.). Retrieved from https://www.nhpco.org/wp-content/uploads/California.pdf

DNR and POLST Forms. (n.d.). Retrieved from https://emsa.ca.gov/dnr_and_polst_forms/