
年齢を重ねるにつれて、身体の健康状態に変化が現れます。視力や聴力が低下したり、身体を動かすことが以前より難しくなったり、日常的な動作への介助が必要になってきます。一般的に、加齢が身体の機能状態を低下させるにつれ、日々の動作能力も低下する可能性があります。日常生活動作(Activities of Daily Living – ADL)は、殆どの人が自分で行う日常的な動作を意味します(Edemekong, 2022)。これには食事、歩行、排泄、衣服着脱、身の回りの衛生、移動などの動作が含まれます。
ADLには自身のケアを自分でする、自立のための動作が含まれます。また、ADLは個人の機能状態を示す為に用いられ、ADLを遂行できなくなると、介助や補助機器に頼ることになり、安全でない状態や生活の質の低下につながる可能性があります (Edemekong, 2022)。「生活の質」には、身体的な健康、生きがい、他人との繋がり、セキュリティー・安全性、自律性が含まれます。
このファクトシートでは、「衣服の着替え」に焦点を当てます。着替えは自立と自律をもたらします。どのような服をいつ、どのように着たいかを自由に選択できる点において、服装は創造性の延長であり、自己表現の一環です。また、友人と連れ立って買い物をしたり、相手の服装を褒めたりする等、服装やファッションは人と人を繋ぐ話題にもなるでしょう。このような要素を認識し、それらが着替えなどのADLにどのように関係しているかを理解することは、生活の質を維持するために重要なことです。
アダプティブウェア

Photo courtesy of Buck & Buck
身体的な制限により衣服の選択肢が限られることもあります。シャツやズボンのボタンを留めたり、靴のひもを結んだり、腕を上げて服を着たりすることは、年齢を重ねるにつれて難しくなる場合があります。そのようなういった着替えの課題に対処する解決策のひとつが、アダプティブウェアなのです。
アダプティブウェアは、身体障害、運動障害、認知障害、感覚過敏症などを持つ人のために特別にデザインされています(Koop, 2022)。アダプティブウェアは、マジックテープ、磁気ボタン、サイドファスナー、シームレス(継ぎ目なし)など、身体への負担を軽減する衣服です(Press, 2018)。スナップボタン、スリップ・オン・シューズ、片手で装着できるベルト等の選択肢もあります。アダプティブウェアは通常の衣服のような外観を維持しながら、着脱しやすいように調整されています。
アダプティブウェアの利点 (Silverts, 2019)
アダプティブウェアは、当人のみでなく介護者にとっても利点があります。アダプティブウェアには 介護者が着用者の着替えを手伝う「介助着衣」 と、より自立した着用者が自分で着替える「自己着衣」の2種類があります(Koop, 2022)。
- 痛みや圧迫感を軽減
- たとえば、デニムなどの厚い生地の縫い目は、長時間座ったり横になると身体に負担がかかります。これは、身体を自由に動かせない人や関節痛のある人に多い悩みです。アダプティブウェアは、縫い目を最小限に抑えることで、より快適な着心地を実現しています。
- 大切な人や介護者の安全を守る
- 着替えの際に身体を持ち上げると、双方の怪我の危険があります。アダプティブウェアは着脱を楽にして着用者を持ち上げる必要性を減らします。
- アダプティブウェアは、日常生活における着替えの介助を軽減することで、ケアに取り組む自信を高めることができます
- 自立性の維持
- アダプティブウェアは磁気ボタンやマジックテープなど、簡単に締められる材料を提供することで、できるだけ長い間、自身で服を着替え続けることを可能にし、自立性を維持します。
- 尊厳を守る
- 着替えの手伝いを他人に頼ることは、自尊心に悪影響を及ぼすこともあります。アダプティブウェアは、当人が自分の身支度をすることで、着脱行為においての自律性を維持し尊厳を守るのに役立ちます。
- ストレスのない着替えを提供
- 服の着脱に時間や労力がかかるとストレスやイライラが溜まります。アダプティブウェアはそんな悩みを軽減します。
- アダプティブウェアは効率的なので、朝晩の着替えの時間を短縮できます。
アダプティブウェアには、アルツハイマー病や車椅子使用など特定の症状や状態に基づいて服を探せる小売店もあります。オンラインで「アダプティブウェア(Adaptive wear)」や「アダプティブクロージング(Adaptive clothing)」などのキーワードで検索すると、取り扱い店を見つけやすくなります。また、機能的で実用的かつモダンなアダプティブウェアのラインを新設する店も増えています。

アダプティブウェアは自律心を生み出すことにより、個人の自立の維持に役立ちます。アダプティブウェアの利用で着替えがより簡単になり、介護者の時間の節約にもなります。介護者は、アダプティブウェアの必要性事態が、日常生活動作(ADL)において、より多くの介助を必要とし、介護の必要性の高まりを示していると認識することも大切です。
アダプティブウェアのブランドのリストは、こちらのAARP(米国の高齢者団体)の記事にも英語で掲載されています。
参考文献 :
Edemekong, P.F., Bomgaars, D.L., Sukumaran, S., et al. Activities of Daily Living. [Updated May 2, 2022]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2022 Jan-. Retrieved from https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK470404/
Koop, C. (2022). The Best Adaptive Clothing for Seniors. Retrieved from https://www.aplaceformom.com/caregiver-resources/articles/family-caregiver-guide-to-adaptive-clothing
Press, J. (2018). Adaptive Clothing Takes Stress out of Dressing. Retrieved from https://www.aarp.org/caregiving/home-care/info-2018/adaptive-clothing-guide.html
Silverts. (2019). 8 Ways Adaptive Clothing Benefits Both Patients and Caregivers. Retrieved from https://www.silverts.com/givingcare/8-ways-adaptive-clothing-benefits-both-patients-and-caregivers/#:~:text=Adaptive%20clothing%20is%