Published
レイン志織,LCSW
アメリカの小説家、マーク・トウェイン氏は “Age is an issue of mind over matter. If you don’t mind it, it doesn’t matter.” 「年齢とは心の持ち方次第だ。気に留めなければ、何の問題でもない。」と唱えています。年齢という概念に振り回されず、自分らしい生き方、大小問わず夢と希望を持って過ごす日々、多くの方がいつまでも意味のある時間を過ごしながら人生を全うしたいとお考えではないかと思います。
さて、気の持ちよう次第で何の問題もなくなる年齢かもしれませんが、自然の理に適った体の衰え、そしてそれに伴う様々な支援の必要性はこの高齢化社会において、避けては通れない道となっています。カリフォルニア州だけをみても2030年には介護の必要な高齢者が100万人以上になると予測されています(Public Policy Institute of California, 2019)。介護問題にあたっては、昨今「Psychosocial Needs-心理的・社会的ニーズ」と言う言葉がアメリカの臨床福祉老医学会に頻繁に出回っています。Physiological/Biological needs(身体的健康ニーズ)と同じように大切なこのサイコソーシャルニーズとは?
大まかにいうと、身体と精神の健康機能を保つために必要な心理的・社会環境要因のことです。高齢化に伴う心理的・社会的支援と聞いても、いまいちご自身に当てはまる具体例を想像できない方もいらっしゃるかもしれません。住み慣れた地域で安心して長く暮らすためにも、心理的・社会的ニーズ、そしてサポートシステムの事、これを機会に一緒に考えてみましょう。
臨床福祉におけるサイコソーシャルポイント
毎日たくさんの高齢者とそのご家族の方へのサービスを提供させていただいていますが、私のようなGeriatric Licensed Clinical Social Worker(老医学専門臨床ソーシャルワーカー)が一番初めに行うことは、患者さんが置かれている状況の診断・分析をすることです。その後、サイコソーシャルアセスメントに基づいたケアゴールをいくつか決め、ゴール到着までの計画を立て、ゴールと現実のギャップを埋めていく支援をご提供いたします。
より良質な老後生活を送れるようにチェックしていくサイコソーシャル問題は大まかに分けて以下のような点です。
- 精神健康状態:うつ病、不安障害、孤独感の有無、グリーフ、薬物・処方箋・アルコール乱用
- 脳健康状態:軽度認知障害、認知症
- ストレス要因との向き合い方:健康問題、金銭問題、人間関係問題、性問題、インデペンデンスをいつまで保てるかという問題、エンドオブライフプラン・ケア問題
- サポートシステムの有無:家族、友人、隣人、ケアギバー、医療チーム、アクティビティーグループ、コミュニティー
- スピリチュアリティ―・生き甲斐の有無:宗教、文化
このリストの中に一つでもご自身に当てはまる問題分野がありましたか?老医学専門臨床ソーシャルワーカーは精神健康に問題のある方や、ストレス要因との向き合い方を模索中だという方には臨床心理カウンセリングを提供いたします。身寄りがない方、または家族はいるけれども遠く離れて暮らしている方などへは、日頃の暮らしをより一層安全かつ意味のあるものにするためにサポートシステムを広げていく案内などを行います。低所得問題や,独りで生活を続けていくことに不安を感じてある方には、社会福祉サービスの説明などのコンサルテーションを行います。
いつ支援を求めるのか?
大抵の方はクライシスが発生してから専門家に相談にみえます。このご時世、メディカルフィールド全般でプリベンションケアが進んでいて、何かにつけて「予防しましょう!」と唱えられていますが、サイコソーシャルの分野、特に精神健康分野では、まだまだの場合が多くみられます。土壇場になって、考えている余裕がないので専門家の言うとおりにやるのではなく、どのステップであってもご自身の希望が尊重されるのが一番です。できれば、周期的に専門家にお会いになって現状把握と精神健康・脳健康のチェック、老後のケアプランをご相談されることをお勧めいたします。
誰に相談を求めるのか?
老医学の専門家はたくさんの分野に分かれていて、誰に相談に行っていいのかわからないという方も多いかと思います。主治医との関係がうまく築けてある方は、主治医やそのナースにご相談されるのもよいでしょう。そこからたいていのサイコソーシャル問題はその病院、保険会社、メディカルグループ、または地域のソーシャルワーカーへと紹介状が届きます。精神健康が主な問題の場合は、臨床心理カウンセリングを受けるのに、州でカウンセリングを行う免許を持っているLicensed Clinical Social Worker, Clinical Psychologist, Licensed Marriage and Family Therapistまたは Licensed Professional Clinical Counselor へ直接ご相談になるのもよいでしょう。ご自身の精神健康、サポートシステムの強化、介護問題や認知症についてなど、大切な方といつまでも、健康的な関係を保てる環境づくりのお手伝い、専門家が高齢者・ご家族の相談窓口になります。
最後に、マーク・トウェイン氏はこのようなことも唱えています。“Let us endeavor so to live that when we come to die even the undertaker will be sorry.” 「亡くなったら葬儀屋も悲しんでくれるくらいに一生懸命生きよう。」
著者について
レイン志織 Shiori Lange, LCSW カリフォルニア州公認臨床ソーシャルワーカー
1999年に単身渡米。アリゾナ大学にて学士(家族学&人間発達学ーBS)・カリフォルニア州立大学ロングビーチ校にて修士(社会福祉事業学ーMSW)を取得。過去、アリゾナ州ピマカウンティーの高齢者協議会やサウスベイの公共保健機関にて高齢者クライアントのケアマネジャーとして働く。様々な心理社会福祉学にまつわるサポートグループやワークショップを開催したり、ソーシャルワークを専攻する大学生、大学院生のインターンシップスーパバイザーとしても学生の育成に取り組んだ。現在平日はシールビーチにある医療センターにて老年医学専門臨床ソーシャルワーカーとして勤務中。月に平均150件以上の臨床ケースに携わる傍ら心理教育セミナーやサポートグループを提供中。主に専門は緩和ケア、メンタルヘルス心理カウンセリング、また急性期病院での治療を終えたのち、自宅に戻った患者への持続的治療を医療チームの一員として行う。週末の開業では、ロングビーチにて心理カウンセリングとジェリアトリックコンサルテーションを提供中。専門は高齢者、家族、介護、認知症、メンタルヘルス、グリーフケア、マインドフルネス。