close

Published

ここ20〜30年の研究により、年を重ねるプロセスにおける音楽の影響が明らかになっています。音楽を聞いたり奏でたりすることは、人生を前向きに捉えたり、脳に刺激を与えるなど、様々なレベルで健康に良い影響を与えます。(Hays & Minchiello, 2005)また、音楽は民族的アイデンティティの面でも一役を担います。音楽を通じて自らの文化的ルーツとの繋がりを深めたり、帰属意識を高めることもできるのです。(Lidskog, 2017)音楽が懐かしい思い出を蘇らせ、日本文化や他者との繋がりを助けるという概念は、我々のコミュニティでもすでによく知られています。

一緒に音楽を演奏するメリット

Keiroの助成金プログラムは、高齢者が音楽を通じて互いに繋がり合う場の提供に尽力する多くのコミュニティを支援しサポートしてきました。 

ウクレレを習ったりコーラスグループに参加するなど、グループでの集まりは、社会的なつながりや関わりを持つ為の安全な場所を提供し、社会的な孤立を減らし、メンバーの生活の質を高めています。 

sakura chorus practice
photo credit – Sakura Chorus

サクラコーラスのメンバーは、パンデミックの間もズームを利用したオンラインでの練習でメンバー同士の繋がりが保たれ、社会的孤立が軽減され、継続のモチベーションになったとコメントしています。2022年末、このグループによる記念コンサートが3年ぶりに開催されました。

コンサート終了後、さくらコーラス代表の宇野芙美子さんは、「メンバーは高齢化していますが、それぞれが力を合わせて一緒に歌い、その喜びを共有できたことが最大の成果です。メンバー全員の努力があってこそ、コンサートが成功したのです。多くのメンバーがこれからも歌い続けたいと意欲的です。」と述べています。

65歳以上の高齢者を対象にしたオーストラリアのある研究では、音楽の演奏は互いの繋がりを強く感じ、友情を育む助けになったと報告しています。また、楽器の演奏は脳に刺激を与え、人生を前向きに捉えらるきっかけになったとも報告しています(Hays & Minichiello, 2005)。

別の研究では、コーラスグループに参加した人はやる気が向上し、孤独感が減り、活動率が上がったと報告されています。また参加者は、コーラスに参加していない人々に比べて転倒率や病院へ行く回数が低く、薬の使用量も少なかったと報告されています。(Cohen et al., 2006

音楽を聴くことの効果

2018年の研究によると音楽を聞くだけでも、認知機能の低下につながる認知症の初期症状の一つである「無気力」を軽減できることがわかっています。この研究では、12週間にわたって介護施設の高齢者に音楽を聞かせることで感覚的な刺激を与え、懐かしい歌を歌ってもらい、楽器を弾いてもらったところ、無気力状態が著しく減りました。同研究では、認知症の患者でも、音楽に関わる脳の部分は良く保たれていることがわかっており、音楽は記憶を失った患者とのコミュニケーションを持つための効果的なツールになると言えます(Tang et al., 2018)。

Keiroは、旧施設の居住者、特に認知力が低下している高齢者に、特別な楽演奏の機会を提供する取り組みを続けています。当初の施設を売却してからの7年間、Keiroはコミュニティーの高齢者が彼らの文化ルーツとの繋がりを保てるように、250以上もの機会を設けてきました。 

音楽の効用は聞く人だけに留まりません。演奏者で音楽療法士でもあるMiko Shudoさんは、音楽が高齢者の気分や対処能力に与える良い影響について語ってくれました。精神的にプレッシャーの多い仕事ではありますが、彼女はやりがいを感じているそうです。仕事としてだけでなく、定期的に介護施設の高齢者のために演奏することに特別な喜びを覚えるそうです。 

音楽は、様々な形で多くの人の琴線に触れ、特別な思いを呼び覚まします。一つの歌が多くの人々を一つにし、聴衆一人一人の心に秘められた記憶を呼び覚まします。音楽は人々に笑顔や感動の涙をもたらし、体を踊らせ、歌を歌わせます。高齢者の方々のために演奏して、そうしたことを目にするととても幸せな気持ちになれるんです。演奏中は、亡くなった先祖のために歌っている気がします。母、祖父母、曽祖父母。まだあったことのない高齢者の方とも、深い感謝の気持ちと繋がりを感じるのです。

演奏者にとっても聞く側にとっても、音楽の効果と健康への良い影響には、計り知れない恩恵があります。それは、我々のコミュニティーにとって、欠かせないものです。

参考:

Cohen, G. D., Perlstein, S., Chapline, J., Kelly, J., Firth, K. M., & Simmens, S. (2006). The impact of professionally conducted cultural programs on the physical health, mental health, and social functioning of older adults. The Gerontologist46(6), 726–734. https://doi.org/10.1093/geront/46.6.726

Hays, T., & Minichiello, V. (2005). The contribution of music to quality of life in older people: An Australian qualitative study. Ageing and Society25(2), 261–278. https://doi.org/10.1017/s0144686x04002946   

Lidskog, R. (2017). The role of music in ethnic identity formation in diaspora: a research review. Wiley Online Library. Retrieved December 13, 2022, from https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/issj.12091

Tang, Q., Zhou, Y., Yang, S., Thomas, W. K., Smith, G. D., Yang, Z., Yuan, L., & Chung, J. W.-yee. (2018). Effect of music intervention on apathy in nursing home residents with dementia. Geriatric Nursing, 39(4), 471–476. https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2018.02.003