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2021年5月に、KeiroはAlzheimer’s Los Angelesと一緒に第一回アルツハイマー病カンファレンスを共催しました。カンファレンスではコミュニティの参加者がより認識を深められるよう、専門家の方々を講演者としてお招きし、アルツハイマー病に関する現在の研究、治療のオプション、危険要因、更には介護者の支援などのテーマが発表されました。
現在のところ、アルツハイマー病の疾患修正治療(病態の進行を抑止する薬物治療)は存在していません。しかし講演者の方々は皆、500万人を超えるアメリカ人に影響を及ぼしているこの疾患について、現時点でできる、積極的な処置・管理や早期発見するための方法が存在していることを強調していました。
早期発見
Joshua Chodosh博士(医師、MSHS(健康科学における科学修士)、FACP(米国内科学会評議員)は、発表の中で、「認知症で悩んでいる患者さんの約50%が、一度も正式な診断をされないままになっています。これは深刻な問題です」、と述べ、認知症の早期発見のメリットを力説しました。
早期発見のメリット (Chodosh, 2021):
- 認知症を発症している患者およびその家族に対し、想定される混乱、ある事柄が起きる理由、そして聞き慣れない概念について説明することができる
- リスクを特定し介入することで、安全対策と予防措置を強化することができる
- 認知能力に有害な影響を及ぼす可能性のある、医学的要因および心理的要因に対処することができる
- 患者と話し合いができる状態であれば、どのような希望があるかを話し合うことで、目標に合致する介護を行うことができる
- 問題が起こってから対応するのではなく、先回りした対策を立てることができる
早期発見の方法
認知症を検出するための主な方法は、定期的に認知症スクリーニングを受けることです。スクリーニングは、リスクを抱え、尚且つ精密検査を受けた方がよい人を見つけだすことを目標としています。
Chodosh博士は、認知機能の試験・検査および機能状況を把握する面接に加え、「自己スクリーニング」あるいは「危険信号」に気づくことも早期発見の方法の一つだと見解を述べています (Chodosh, 2021)。Alzheimer’s Los Angelesによると、アルツハイマーの兆候や症状として注意すべき事柄に、記憶喪失や、言葉が出ない、視野/空間に関する問題、合理的推論や判断力が損なわれている状態など、非記憶的側面における認知の低下などが含まれます。
スクリーニングは、認知症の兆候を検出する手段として有効ですが、加えて定期的に受けることで、将来のスクリーニングに向けたベースラインを構築することにもつながります。これにより時間の経過に伴う健康の変化を見出すことが容易になります。
スクリーニングは診断とは異なるため、スクリーニングでなにか目につく問題があれば、医師は正式な診断を行うための診断検査を実施するとともに、今後起こりうる健康上の問題に目を向けることもできます。
軽減可能な危険要因
アルツハイマー病や認知症の発症につながる心理的、物理的要因はいくつかありますが、最も一般的な危険要因で私たちが変えられないのが、加齢と遺伝です。「アルツハイマー病を発症している人の数は、65才以上では5才年齢が上がるごとに2倍になります」(Alzheimer’s Los Angeles)。
一方、Helena Chang Chui博士(医師)は、認知症のリスクを減らす上で、健康的な生活を送ることが重要な役割を果たすことを発表しました。Chui博士は、12の軽減可能な危険要因を適切に管理することで、認知症のリスクを大幅に減らすことができると語っていました。
これらの要因は、人生の初期段階から始まっています。教育レベルが低いと、晩年になって認知症を発症するリスクは高くなります。中年期における軽減可能な危険要因には、難聴、外傷性脳損傷、高血圧、アルコールの過剰摂取、肥満などがあります。晩年における喫煙量の増加、うつ病の予防や治療をしないこと、社会的孤立、運動不足、大気汚染、糖尿病といった要因も大きな影響を及ぼします(The Lancet, 2020)。Chui博士は次のように述べています。「これらの12の危険要因は認知症発症リスク全体の約40%を占めます。これらのリスクを低減することは、遺伝的リスクを持つ方にも持たない方にも、メリットになります」 (Chui, 2021)。
脳の健康を維持する
最後の発表では、Sarah Lenz Lock氏(法務博士)が、一生を通じて脳の健康を適切に維持する重要性について発表しました。Lenz Lock氏は「アルツハイマー病は、最も恐ろしい病気だと考える方が多いと思います。40才以上の成人の約4分の3が、将来、脳の健康が低下することを非常に、またはある程度懸念しています」と述べました。
Lenz Lock氏は、加齢の過程で実践すべき「脳の健康への6つの項目:BE MORE」と呼ばれる脳の健康の適切な維持方法を紹介しました。BE MOREとは、人と交流し、頭を使い、ストレスを管理し、継続的な運動をし、疲労回復につながる睡眠を取り、そして正しい食生活を送る(Be social, Engage your brain, Manage stress, Ongoing exercise, Restorative sleep, and Eat right)ことを表します。また、それぞれの項目は私たちのメンタルヘルスを向上させることにつながります。Lenz Lock氏は、実生活の中でこれらを実践していくことについて、開始は早ければ早いほど良く、また始めるのに遅すぎるということはない、ということを力説しました。
さらに、Debra Cherry博士は、介護者教育ワークショップ、患者活動プログラム、サポートグループ、カウンセリング、貴重なコミュニティリソースの利用法など、Alzheimer’s Los Angelesが患者と家族のために提供しているリソースを紹介しました。
アルツハイマー病についての対話を習慣化する
各発表はそれぞれ異なるテーマでしたが、カンファレンスを通して一貫していたのは、「希望はある」というメッセージだと言えるでしょう。
アルツハイマー病や認知症に対する社会的偏見が今までになく取り払われようとしています。医師や家族とアルツハイマー病にまつわる対話を習慣的に行うことで、当事者すべての間に信頼関係を築くことができます。認知症についての対話を避けるのではなく、当たり前のことにしていくことで、早期発見や予防に向け適切な処置を講じていくことができるようになるのです。
Sources:
AARP. (n.d.). The Science: Staying Sharp’s Six Pillars of Brain Health. Retrieved from https://stayingsharp.aarp.org/about/brain-health/the-science/
Alzheimer’s Los Angeles. (n.d.). Alzheimer’s Disease: The Basics. Retrieved from https://www.alzheimersla.org/for-families/understanding-memory-loss/alzheimers-disease-the-basics/
Alzheimer’s Los Angeles. (n.d.). What Are the Signs of Alzheimer’s Disease?. Retrieved from https://www.alzheimersla.org/for-families/understanding-memory-loss/symptoms/
Alzheimer’s Los Angeles. (n.d.). What Causes Alzheimer’s Disease?. Retrieved from https://www.alzheimersla.org/for-families/understanding-memory-loss/causes/
Chang Chui, H., (2021, May 1). Alzheimer Disease Research Update: What is the Weather Forecast? [Conference presentation]. Alzheimer’s Conference, Los Angeles, CA, United States. https://youtu.be/IVgmXQejgyU
Cherry, D., Lenz Lock, S., (2021, May 1). Hopeful Signs for the Future – Resources We Have Access to [Conference presentation]. Alzheimer’s Conference, Los Angeles, CA, United States. https://youtu.be/IVgmXQejgyU
Chodosh, J., (2021, May 1). Overview of Alzheimer’s and Related Disorders [Conference presentation]. Alzheimer’s Conference, Los Angeles, CA, United States. https://youtu.be/IVgmXQejgyU
Livingston, G., Huntley, J., Sommerlad, A., Ames, D., Ballard, C., Banerjee, S., Brayne, C., Burns, A., Cohen-Mansfield, J., Cooper, C., Costafreda, S. G., Dias, A., Fox, N., Gitlin, L. N., Howard, R., Kales, H. C., Kivimäki, M., Larson, E. B., Ogunniyi, A., … Mukadam, N. (2020). Dementia prevention, intervention, and Care: 2020 report of the Lancet Commission. The Lancet, 396(10248), 413–446. https://doi.org/10.1016/s0140-6736(20)30367-6