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2020年、ナオキさんは、パンデミックの影響でいつも通りに仕事ができなくなってしまいました。外出の多い仕事でしたが、それも制限され、リモートワークを強いられることになりました。同時に、業種は違えど、同じく外出が多い仕事をしていた妻も、家での仕事に切り替えざるを得ない状況になりました。二人とも家にこもりがちな生活の上、不透明な将来への不安がよぎり、仕事が思い通りにできないもどかしさ、焦りが募っていき、「離婚に至る心理状態の地盤ができていた」と、ナオキさんは振り返ります。

woman with glasses talking with a middle aged man

その後、二人は離婚。一人暮らしを始めたナオキさんでしたが、一人でいる時にふと、精神的に安定していない自分を感じ、「このままではいけない」という危機感を抱きました。「自殺、とまではいきませんが、Depress (鬱)の状態のままでは大変だと感じました」とナオキさん。その頃、一緒にボランティアプロジェクトに携わっていた知り合いに近況を話したところ、Keiroと提携してリトル東京サービスセンターが提供するメンタルヘルスサービスについて聞き、受話器を取りました。

数か月後、ナオキさんはセラピストと初めてのバーチャルセッションを受けました。サービスを受け始めてから2年が経った現在も、2週間に一度のペースで話をしています。開始当初は週1の割合でした。メンタルヘルスのセラピーセッションでは、その個人のニーズに合わせてセッションのペースや内容が決まります。ナオキさんの場合は、自身の行動や考え方の振り返りを中心に内容が構成され、時間が経つにつれて前に話していた時と今話している内容の違いなどの指摘を通じ、自分を見つめたりしていました。時には、視覚的に自分の状況を理解するエクササイズも取り入れ、紙に二重丸を描き、真ん中の円の中に自分、自分が信頼できる人をその外側の円、少し信頼できる人をその外側に書くことで、自分の人間関係を視覚的に把握する客観的なセッションも受けました。「自分がどういう状態なのか、というのを考える、見つめる、それが僕にとってはヘルプになっていました。考えて、見つめたものを言葉にする。言葉が精神的に支えになる要素となる。そういうプロセスを何度も経てきています」とナオキさんは語ります。

ナオキさんにとって、セラピーは心の支えだけではなく、パンデミックという特殊な状況においても人とのつながりが持てた特別な時間となりました。「人と話す機会がない、下手したら1週間人と話す機会がなかったこともあった。そういう時にこういうセッションでセラピストの方と話すことができたのはうれしかったです」。

パンデミックで注目された一方で、アジア系のコミュニティでは多くの場合、メンタルヘルスの概念が皆無な部分もまだまだあります。そんな中、ナオキさんは、サービスを受けることへの抵抗感はなかったと振り返ります。元妻の子がメンタルヘルスの問題を抱えていた際、自身の理解を深めるためにNAMI(National Alliance on Mental Health)という精神障害を持つ当事者とその家族を支援する団体の講習を受けていた経験を持っていたためです。同じ境遇にあり、困難を抱える家族同士が話し合える場が提供され、「いろいろ学ばされたものがあったので、そういうスティグマが一つ一つ減っていきました」といい、最初はスティグマがあったものの、講習を重ねることで少しずつオープンに話せるようになったと振り返りました。

two people holding hands

過去に家族が経験していたということもあり、今回、多くの方が取材を拒む中、ナオキさんは、依頼時に快諾してくれ、「今まで話した内容が足りるか正直不安ではあります。実際セラピーがどのくらい役に立っているか、文章化は正直難しい感じがします。ですが、多少なりとも、私としてもお役に立てるような話ができればと思いました。こういった取り組みがKeiro、LTSCでされていることを、個人的に知ってもらいたいという気持ちもありました」と、話してくれました。

ナオキさんは、どのような支援を具体的に受けるのか、受けないのかは横に置いて、とりあえず、軽く連絡する気持ちで問い合わせてみてほしいと語りました。まだまだメンタルヘルスが浸透していない今、誰にも言わず一人苦しんでいる人こそ、助けを求めてほしい強調し、「自分の経験を通して、人の心というのは弱いものだなと感じました。本当に崩れやすい、壊れやすいと感じます」と、気持ちが弱った時にそれを放置すると、将来問題が生じかねないとナオキさんは感じたと話してくれました。最後に、今後さまざまな面でメンタルヘルスが注目されてほしいと、ナオキさんは力強くコメントしました。「より多くの人がちゃんと(自身の)精神的状態を認識して、その認識を元にセラピーを受けることで、色々な将来的な問題を事前に防げていくのではないかと感じます」

プライバシー保護のため、名前は変更されています。