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一般的に、年齢を重ねるにつれて、認知症やアルツハイマー病の診断を受ける可能性が高くなると考えられています。人生の最終章に近づくにつれて、認知症は避けられない診断であると思っている方もいらっしゃいます。しかし、毎日の生活に運動を取り入れることで、そのリスクを減らすことができるとしたらいかがでしょうか? Keiroは、バランスのとれた活動的な生活スタイルが、脳の健康を維持するのにどのように役立つのかについて、BrainSPORTおよびNeurobehaviorプログラムの一環として、UCLAのスポーツおよび行動神経学を専門とするUCLAの教授で神経学者のケビン・ビカート博士を取材しました。
健康的な脳
ビカート博士によると健康な脳とは傷や収縮がない脳のことです。傷は脳の特定の箇所への血流が遮断されたときに起き、脳卒中として知られています。収縮、または委縮(アトロフィー)は加齢により起きるのが通常ですが、アルツハイマー病などの変性疾患により、加速することもあります。長年にわたり蓄積された傷や収縮は脳の健康をむしばみ、認識力の低下につながる可能性があります。しかし、幸いなことに、これらの進行性疾患の一番大きなリスク要因は、私たちのコントロール範囲内にあります。つまり、遺伝よりもわたしたちの生活習慣にかかっているのです。傷や収縮があるかどうかは、ほとんどの場合、飲酒、喫煙、栄養不足、睡眠障害、運動不足、社会的孤立等の環境要因に依存します。それでは健康な脳を維持するためにはどうすればいいのでしょうか?
達成可能な運動へのヒント
ビカート博士によると、長年の研究から、年齢を重ねても身体的に活動的であり続けていくことが、脳の運動だけをするよりも、脳の健康を改善し、認識機能の低下を防ぐ最適な方法であることが示されています。脳の健康のためのモバイルアプリを使ったり、ゲームをすることは、そのゲームやアプリを攻略する脳の機能を改善するにとどまります。例えば、メモリーゲームはそのゲームのための記憶力を向上させるかもしれませんが、脳全体の健康にはつながりません。理想的には、脳トレと身体的な運動の両方を組み合わせることで脳全体の健康改善を行います。
ビカート博士は、新しいことを始めたい人には、脳の健康を促すダンスを強く勧めています。「ダンスは脳の健康のために役立つ多くの側面が備わっています。適度な強度の身体活動が含まれ、ダンスの動きを調整するための認知プロセスが求められ、素晴らしい社会的交流の機会でもあります。ダンスの動きは身体的、精神的な作業だけでなく、ほかの人とリズムをとることも求められます。」
上手にダンスを踊れないと感じていても、ダンスが体に与える負担は少ないので、大多数の人が参加して楽しむことができます。ビカート博士はダンス以外の運動を探している人にも、社会的な要素があり、同様の効果がある活動を勧めています。
運動の始め方
ビカート博士はあまり活動的でない人、またしばらく運動をしていなかった人には、最初はとても簡単なことから始め、時間をかけて少しずつ強度と持続時間を増やしていくことを推奨しています。段階的に運動の中身を強化するランプアップルーチンは、ペース配分と目的の達成を重視します。低い強度からゆっくりと始めることによって、徐々に強度と持久力をつけていきます。どのような運動に参加する場合でも、達成可能な目標を設定することが重要です。これにより、段階的なランプアップルーチンを作成することができます。
例えば、博士はまず1日1万歩を目指すことから始めるよう提案しています。この目標が定着したら、次に3-4日間かけて合計約150分の運動をすることを新たな目標として設定します。運動は中程度のレベルで、「これは、私の目安としては、長い会話を普通に行うことは難しいが、会話は続けられる、という程度のものです」と述べています。運動は持久力トレーニングと抵抗トレーニングのバランスをとるべきです。これは身体的な健康だけでなく認知的な健康も改善します。抵抗トレーニングには、プランク、スクワット、腕立て伏せなどの自重運動が含まれます。加齢に伴う骨折やそのほかの怪我を防ぐことに役立ちます。
若いころにスポーツに参加していた人のほうが運動を再開するのが他の人より容易であることが多いかもしれません。ビカート博士曰く、ある研究によれば、高校時代にスポーツをしていたかどうかが後の人生で身体的に活動的であるかどうかに大きく影響することを示しているそうです。博士は、祖父母が孫にスポーツに参加するように勧めることを提案しており、それが将来、孫たちの健康で活動的な生活につながる可能性があると述べています。
大切なのは楽しむこと!
年齢を重ねるにつれて、社交的でいることはとても重要です。高齢者が孤立すると、認知機能が鈍くなり、健康の低下につながる可能性があります。ダンスクラスに参加したり、以前行っていたスポーツに情熱を再燃させることは、身体的に活動的であるだけでなく、社交的でもいられるようになります。最後に、ビカート博士は、楽しみながら運動する大切さを述べています。
「私は脳の健康に関係する社会的、感情的、精神的な面を軽視したくありません。これらの側面は、私たちが日々の障害を乗り越え、朝起きるときの機動力になるものです。脳の健康を促進するために選んだ活動から意味・意義を感じなくなってしまった場合、その活動を続ける可能性が低くなります。社会的、感情的、精神的な幸せは、認知症を防ぎ、全体的な脳の健康を促進するバランスのとれた活動的な生活の基盤となるのです。」