Published
第一部:電話するのに早すぎるタイミングはない
第二部:介護者への支援、そして最も一般的なケース、認知症患者への支援
第三部:家族間の難しい会話
第五部:緩和ケアについて考える
第四部:文化に配慮したケアとは
「癒しケア」*は当プログラムの発足以来、文化に配慮した緩和ケアを、 200人以上に提供してまいりました。プログラムの誕生から2年半経った今、私たちは「癒しケア」チームの3人にこれまでの道のりについてお話を伺いました。五部にわたるこの対談シリーズでは、私たちのコミュニティにとってどのようなメリットがあるのか、深く掘り下げます。
「癒しケア」は患者と家族の状況に合わせて、一人ひとりに寄り添ったケアを提供しています。ここで紹介する事例はすべての人に当てはまるわけではありませんが、この対談を通じて、様々な選択肢と「癒しケア」の事例をご紹介したいと考えています。
*このパートナーシッププログラムはKeiroとプロビデンス・ヘルス・アンド・サービス(Providence Health & Services)の提携に基づいており、医師、看護師、ソーシャルワーカーが一つのチームとなって、複雑なヘルスケア制度の中で患者とその家族が病を乗り越えてゆけるように手助けを行っています。
「癒しケア」は日本語を話す患者さんと家族をどのように支援していますか?
福山可奈子氏:日本語を話す患者さんの場合は、医療制度そのものを理解するための援助を必要としているように見受けられます。英語を理解できる方でも、医学用語を理解するのは難しいこともあり、日本語で説明すると安心していただける場合が多いです。
八浪祐一・エドウィン医師:時には〔状況を〕把握するために患者さんの医師と話をして、その後で家族に電話をして説明することもあります。
通訳のような支援をされているという事ですか?
八浪祐一・エドウィン医師:通訳をするというよりは、全体の状況をかみ砕いて解説をしているとでも言いましょうか。私は医師の所見を日本語で伝えるように努力しています。けれども例え英語でも、コミュニケーションの行き違いは起こると思います。日本語を話す方によく言うのは、「ご安心ください。たとえ英語で話していても、こういうこと〔行き違い〕は起こるんですよ」と言っています。(笑)
アメリカの医療制度の中で、日本語を話す人たちが特に苦労するところはありますか?
福山氏:自分たちが直面している事柄をバリデーション〔気持ちをくみ取って受け入れること〕してもらうことだと思います。日本のやり方と大きく異なるということに、戸惑いや苛立ちを感じていらっしゃることが多いように思います。
八浪医師:私は、自分も経験したことがあるからだと思うのですが、その苦労が良くわかるといいましょうか、共感できることが多い気がします。異なる医療制度に親しんできた方にとっては、何が起こっていて、何が正しいのか、色々と疑念を抱いてしまうでしょう。例え英語を話せても、日本出身の患者さんの中には、このようなプロセスを通らないといけない事を伝えるだけで、安心される方もいらっしゃいます。また、言葉の面での支援が必要な場合でも、大抵皆さん間違ってはいないのです。しかし、自分が正しいことをしているのかどうか、自分が出来ることをすべてやっているのかどうかに、確信が持てないのです。

福山氏:こういう患者さんにとっては、自らが行動して、物事がきちんと行われていることを確認しなくてはならないところが大変なのです。癌患者でも、治療の承認を得るために電話で何時間も待たされたり、請求書の確認をするために電話をかけたりしなくてはなりません。察するに、日本では、恐らく制度を分かっているからか、あるいは自分で多くのことをせずに済むのか、または誰かが代わりにやってくれるのかも知れませんが、ここ[アメリカ]ではそれを全部自分でしなくてはなりません。
これらの患者に対するアドバイスとして、日本に帰ることを勧めた経験がありますか?
八浪医師:実際に特定の患者さんについてははっきりと提案したことがあります。例えば子どもがいない夫婦や、こちらで仕事に復帰する予定がない場合です。基本的には、日本に帰る方が理にかなっている場合〔のみ〕です。
福山氏:もちろん、これは万人向けの選択肢ではありません。これを推奨するのは、まだ故郷に帰るだけの体力があって、旅行に耐えられる人向けの選択肢です。また、戻った際の利用できるサポートシステムも調べます。もしも周りから支えてもらえる条件がそろっていれば、それが日本であれ他の場所であれ、それを利用することを勧めます。
八浪医師:実際、帰国して治療というのは日本という国だから選べる選択肢だと思います。他の国々にはアメリカのように組織化された医療制度がないかも知れないため、そういう場合は勧めません。
日本に帰国する患者さんにはどのような支援を提供するのですか?
八浪医師:ある患者さんの場合は、日本語の紹介状を書きました。日本に帰国して新しい病院や医師にかかる時に使うものです。
普通アメリカの医療制度では、診療記録を依頼するととても分厚い書類を持たされます。そのため、より円滑に移行できるよう2ページ程度の要約を作成して紹介状に添付しました。日本の医師が英語を読めないからではなく、数百ページも読まなくてはならないのでは日本の医療チームが大変だからです。
お二人にとって、文化に配慮したケアとは何を意味するのですか?
福山氏:そうですね・・・皆さんは文化に配慮したケアとは、彼らの文化を知ることとか、微妙なニュアンスを理解することだと思うかもしれませんが、本当の意味は、その人が必要としていることに気を配ることだと思います。この人は、本当はどんな人なのだろうか。今何を希望し、必要としているのか。思いやりを持って注意深くそういうところに気づくことが大切なのです。

八浪医師:単に日本人だからとか日系アメリカ人だからといって、皆が同じだという訳ではありません。彼らの価値観、大切なのもの、そして家族の力関係は、個人や家族によって大きく異なります。私は最初この分野に足を踏み入れた時、自分は日系アメリカ人なので、患者が何を考えているのかがある程度分かるだろうと思っていました。けれども、その人の文化に敬意を払ってオープンな気持ちで接することは、どんな患者にも通用出来る普遍的なアプローチです。これこそが活動を続ける中で私が日頃学んでいる事だと思います。単に同じ民族に属しているからといって、彼らのすべてが分かるという事にはならないのです。
何か具体的な例がありますか?
八浪医師:私には自宅で寝たきりの80歳の患者がいます。もう長い間、病院で医師の診察を受けていないのです。けれども彼は、ここ〔自宅〕で死にたいと希望しています。「医者に行きたくない」と言うのです。同居している兄弟は、「母親も同じでした。私たちはこの家で母を介護しました。母は一度も医者にかからずに、ここで亡くなりました。私たちは、彼にも同じことをしてやれるだろうか、と悩んでいます」と言います。その家族は、もしも彼に何かが起きて、医者に連れて行っていなかったら、警察と高齢者保護サービスに、高齢者虐待で告発されるかもしれない、と心配していました。その為に私たちが入り、私たちがついていますよ、その選択肢を尊重します、と家族に伝えました。私たちは手短に診察をして、彼らの考えが不当なものでないことを確認した後、こう伝えました。「もしもそれが彼の希望であり、そうしたいと思っているのなら、私たちはそれをサポートしますよ。」ですから私は、それが文化といいましょうか、私たちが提供する文化に配慮したケアだと思います。これはたまたま日本人の患者でしたが、別の文化でもこの状況は起こり得るでしょう。価値観は一人ひとり異なるのですから、尊重をして、自分たちの価値観を押し付けないようにするべきです。
私たちは状況をもっと詳細に検証することもできたでしょうが、そうはしませんでした。なぜならそれが彼の希望だったからです。私たちは文化に配慮していますが、それは単に日本的な意味だけではなくて、その家族の文化と彼らの伝統がどのようなものなのかについて配慮をしていると思っています。
文化に配慮したケアは、患者と家族両方のニーズと希望に応じて、様々な形を取ることが考えられます。個々の患者の状況はそれぞれ異なり、同じ患者は二人としていないため、「癒しケア」チームのアプローチは、思いやりを基本にしています。「癒しケア」チームの全人的ケアを基盤としたサービス提供は、一人ひとりに寄り添ったかたちのケアと思いやりこそが核となっています。
第一部:電話するのに早すぎるタイミングはない
第二部:介護者への支援、そして最も一般的なケース、認知症患者への支援
第三部:家族間の難しい会話