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第一部:電話するのに早すぎるタイミングはない
第三部:家族間の難しい会話の支援
介護者への支援、そして最も一般的なケース、認知症患者への支援
癒しケアはプログラム開始以来200人以上の方々に、文化的背景に配慮した緩和ケアを提供してきました。Keiroとプロビデンス・ヘルス・アンド・サービス(Providence Health & Services)の提携プログラムでは、医師、看護師、そしてソーシャルワーカーのチームが追加のサービスを提供する事によって、患者さんご自身やご家族が複雑な医療制度の中で病と向き合えるようお手伝いします。
プログラム開始から2年半が経過した今、癒しケアチームの3人の方々(八浪祐一・エドウィン医師、ソーシャルワーカーの福山可奈子氏、看護師のジョシュア・ノースカット氏)にインタビューし、これまでの道のりについて伺いました。この5部に渡るシリーズでは、癒しケアプログラムが私たちのコミュニティに、どのように役立つことが可能なのかのかについて深く掘り下げていきます。
「癒しケア」は、患者と家族の状況に合わせて一人ひとりに寄り添ったケアを提供することを目指しています。ここで紹介する事例はすべての人に当てはまるわけではありませんが、この対談を通じて、様々な選択肢と「癒しケア」の事例をご紹介したいと考えています。
「癒しケア」チームは、患者だけでなく、患者を介護する家族にも支援を提供しています。具体的には、どのような支援を介護者へ提供しているのですか?
福山可奈子氏:介護者の方にはバリデーション〔気持ちをくみ取って受け入れること〕を行うことが多いです。これを必要としている場合が多いです。介護者の方は自分がやっていることが正しいのか、あるいは十分なのかについて、確信が持てないことがあります。また「もしもこう言う事が起こったら、その時にはこの選択肢を検討しましょう」と、将来の介護の選択肢についても話し合います。定期的に介護者と話す機会を持ち、どのように介護しているかの状況を聞き取り、適切なリソースや情報を提供します。
八浪祐一・エドウィン医師:介護しているときは他の家族はどうしているのか、知らないことが多いと思います。ですから自分たちの現状だけを見て、状況の良し悪しを判断する恐れがあります。そこで私たちが第三者の意見、とでも言いましょうか、バリデーションを提供するのです。「実際、やっていらっしゃることはとても効果的です」や、「これは非常に難しいケースですね」などと伝えます。
負担が増えてしまったら、助けを求めても良いのではないでしょうか。兄弟姉妹に助けてもらうことや、介護者を雇うことを検討する必要がある場合もあるでしょう。また状況によっては、施設への入居を検討もしてよいのだ、ということも家族に伝える場合があります。
福山氏:その他に次のような支援を提供しています:介護者が孤立していて他の人々との心の繋がりが必要な場合には、介護者サポートグループを紹介する;食事・ケア付きホーム(ボード&ケア)や介護付き住宅といった長期利用型介護施設の選択肢を、比較しながら説明する;必要に応じて「メディ・カル(Medi-Cal)」の情報を提供する;在宅介護者に関する情報や選択肢を提供する;必要に応じて、遺言書、信託、事前指示書の作成や、それらの文書の更新に関する法的支援を提供する;更には政府が実施する食事の宅配サービスや移動手段に関する情報を提供する。
外部の支援を家族が必要としているけれども、金銭的な理由で限られた選択肢しかないケースは今までにありましたか?そのような時はどのような援助を提供しますか?
八浪医師:そのようなケースはたくさんあります。
ジョシュア・ノースカット氏:必要なものをすべて提供できる、金銭的な余裕がある事例はあまり見かけませんね。
八浪医師:そういったケースに関しては、他の家族や親族と話し合うよう促します。大変な時期なので、自分だけで介護しようとしても耐えられませんよ、と伝えたりします。
福山氏:以前メディ・カル*を受けられるようになるために、ある家族にファイナンシャルプランナーを紹介したことがあります。その患者さんは今、看護施設で暮らしています。
癒しケアプログラムが開始してからの2年半を通じて、支援を提供している人々に共通する傾向など見られましたか?
福山氏:一番多く相談を受けたのは、認知症患者の介護に苦労し、助けを必要としている家族介護者の方々からでしょうか。癒しケアの対象患者の半数以上が認知症と診断されている、と言ってもいいでしょう。
八浪医師:認知症患者は記憶力が低下しているため、判断力も低下しがちです。身の回りのリスクに気付きにくいため、転倒のリスクが高くなります。
ノースカット氏: 時間帯によっては、投薬も〔症状が起こる〕要因になります。また、歩行器や杖が必要だということも患者さんは忘れるので、転倒しやすくなります。
自分が認知症患者であることを否定する方と関わることはありますか?
福山氏:はい。
記憶をなくすことは老化の過程で普通のことだと考えている人が多いですか?
福山氏:そういう訳ではなく、自分が記憶をなくしたことに気付かないのです。記憶をなくしたことを自覚する段階を通り越してしまっているのです。
癒しケアを申し込むために最初に電話を掛けてくるのは誰が多いですか?
全員:ご家族です。
認知症の方を介護する家族に共通する苦労があるとすれば、それは何ですか?
八浪医師:多くの場合、患者の家族は様々な理由で介護に困っていることが分かります。とても混乱して動揺している患者の扱いに苦労している家族がいます。また「私は大丈夫、あなたの助けは要らない」と患者が言うために、介護者を雇うのに苦労している家族もいます。
ノースカット氏:ええ、[患者が]強く拒絶します。特に男性の患者に多いです。
八浪医師:あるいは「私の両親/従兄弟/兄弟姉妹があなたの助けを必要としています」という電話がかかってきます。それで私が個別に患者さんご本人と話をすると、助けは要らない、と言われることが時々あります・・・。そういうケースは難しいですね。
そのような場合はどのように支援しますか?
八浪医師:徐々に慣れさせるように努めます。週に一回、介護者を雇うところから始めるよう勧めます。患者さん本人には、介護者ではない、と伝えます。私が好きな言い回しは「今こそ王様や女王様のように暮らして、周りの人たちに色々やってもらう時ですよ」です。(笑)どれかの方法が効果を発揮することを願って様々な事を試してみます。
ノースカット氏:もしも患者の症状が軽度の混乱状態であれば、「あなたが自立を望んでいて、プライバシーを守りたいと思っていることは承知しています。でもこれはあなたではなくあなたの奥さんのためにやっているのです。そうすることで、奥さんが自分の用事を済ませられるようになるんですよ。買物に行くとかね。」と伝えたりもします。
八浪医師:またこんなことも言います。「あなたに転んで欲しくないんですよ。転倒するとさらに体力が落ちる恐れがあります。そうならない限りは、自立して快適に過ごせます。だから誰かにあなたのそばにいてもらう必要があるのです」。家族はもちろん理解しているのですが、患者と家族の両方同時に伝えます。そうすれば家族は「お医者さんが言ったでしょ」と堂々と言えますし、患者は覚えていないかも知れませんが、こうすることで少なくとも家族は嘘を付かなくて済みますから。
患者に何かをするよう説得できない場合はありますか?
ノースカット氏:私たちは説得はしません――あくまで強く勧めることしかできないのです。
福山氏:実際、私たちが何かをするように又はしないように患者を説得することは、できないのです。さらに、認知症患者の場合はどこかの時点で、話し合いをしても結論に至らないことが多くなります。その時に私たちができることは、家族と話をし、教育することだと思います。例えば、患者がシャワーを浴びなくても、それで死ぬことはありませんよね。患者にとって最善なことと、最善の介護を提供する、この二つのバランスをどううまく作っていくかを学ぶことも家族にとっては大切なことかもしれません。
私たちは患者の言いたいことに耳を傾けるように家族に勧めます。そして、それが病気によって引き起こされている症状であり、うまくそれと向き合いながら対応する必要がある、ということを教えます。なぜなら皆さんが正常だと思う事柄が、患者にとってはもう正常ではなくなってしまっているので。
認知症が原因で患者が暴力的になったとしたら、介護はより困難になりますか?
八浪医師:認知症が原因で患者が暴力的になったとしたら、介護者にとっては、助けが必要だということを受け入れやすくなるかも知れません。
福山氏:家族の1人が何とか対応できている場合、私たちに相談することはあまりないと思います。けれども注意をしても効き目がない、あるいは患者が一人で徘徊するようになると、相談を持ち掛けられるような気がします。
八浪医師:電話をいただくのは、記憶力の面で問題が生じるようになる、初期から中期の認知症のように見受けられます。患者は依然として自立を望んでいたり、もはやそうではないのに自分は自立していると思いこんでいたりする場合が多いです。どんな状況であれ、何も話さないでいるよりは、私たちにぜひ相談していただいて胸の内を吐き出すことが大切な一歩だと思います。
*看護施設のような有料の長期介護施設の支払い方法の選択肢をお探しの場合は、ファイナンシャルプランナーに相談をしてメディ・カルなどの選択肢について相談することを検討してください。